怖い話。葬祭でバイトしてた時のこと。

将来結婚式を安くしたいが故に就職した私が配属されたのは、葬式専門の部署。私の直属の上司は霊感があると噂せていた。

ある夏の事。

私が社会人になって2年、夏の話だ。

将来結婚願望があった私は少しでも
安くなればと冠婚葬祭の仕事をしていた。

だけど人不足だったのは葬祭だけ。
しかもその上司はどうやら霊感があるらしい。
それを知らないで始めて一緒に依頼主の元へ
行った時に「俺、この家入りたくないな。」
って言われてこいつサボリ魔かよ。っと
思ってしまったぐらいだ。

その考えが間違っていた事を身を以て知ったのは
夏、しかも真夜中。
どちらかと言えば大きい洋館にお住いの
ご主人が亡くなり、今からご自宅に行くから
行こうとの事。
上司が迎えに来てくれてその車で向かった。

資産家らしくさぞかし泣く人も多いだろうなぁ。
なんて呑気に考えている間につき、

ピンポーン

門前のチャイムを鳴らすと奥様らしき人が
出てきた。

「お世話になります。◯◯の者です。」

家の中に通されるといくつも部屋があり、

「どうぞ、」

通された部屋に私は入ったが、上司は
仕切りを跨ぐ前に息を大きく吐いて
部屋に入ってきた。

まずは手を合わせた仏に手を合わせ、
私は死化粧や服装を任せられ、
上司は明日からの説明を家族にしていた。
私は霊感とやらは無く、難なく仕事を終え
また明日宜しくお願いしますと行って帰った。

「大丈夫か?」

運転してくれていた上司が突然口を開いた。

「別に。特別変わった事はないですね。」

「そうか。なら良いんだ。」

やめてよ、今から仕事なのに怖いじゃないかと
思いながら事務所に帰ると誰もいなくて、
私と上司は各自の席につき明日の段取りを
書面に纏めていた時、

コンコン

戸を叩く音がした。

「何か御用でしょうか?」

「……。」

コンコン

「先輩?」

なんだかおかしい。
答えない客もそうだが、いつもなら接客に
煩い上司が何度も何度もノック音が続いている
のに出ようとしない。

社員は専用入口だし、お客様入口は使わない。
もし忘れたなら電話するだろし。

コンコン…コンコン!!

次第に音は大きくなり始めた頃、
自動ドアと、部屋を遮るのにスクリーンを
降ろしているのだが、車が店の前を通ると
身長でいうと3歳ぐらいの子の影が見えた。

「招かざる客…」

やっと先輩が口を開いた。

コンコン!!ドンドン!!ドンドンドン!!

途端にノック音が変わった。
まるで手のひらで叩いているようだ。

「ついてくるなと言ったんだがな。」

足が完全に竦んでしまって動けない私の代わりに
上司が扉の近くに行った。

ドンドンドン ドンドンドン

「そちらに迎えていい奴はいない。帰れ!!」

そう言った瞬間、

ドンドンドンドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドンドンドンドン

窓という窓が叩かれ始め、辺りを見渡すと
窓には手の影見え、終いには建物が揺れた。
悲鳴をあげたいが声が出ない。
崩れ落ちるように机の下に隠れて目を閉じ、
南無阿弥陀を唱え続けたが全然止まない。

そのうち電気がチカチカし始めて、
机の物や棚の物が落ちていく。

ガチャンッ!!!!

ゴロゴロゴロッ

いろんな音が耳が拾って頭の中は
すでに真っ白になりつつある。

「たちが悪い!誰が掃除すると思ってんだ!!」

結構な音量で上司言うと揺れは収まったが、
叩く音は止まない。
次第に、

「遊んでやるつもりはない!!」

「帰れ!!」

を繰り返し始めた。

何分ぐらい机の下にいただろう。
その間は只々怖くて恐ろしくて、
気づけば耳を塞いで泣いた。

途中から意識を飛ばしたのか、
目を覚ますと仮眠室で寝かされてて、
昨日どうなったのか上司に聞いたが
覚えてなく、私が途中で寝てしまったので
仮眠室に運んだとの事。

じゃ、あれは夢かと思い始め、トイレに行くと、
女子トイレの柵がついた窓にはどう考えても
ありえない数、しかも大小様々な手形が
窓を埋め尽くす様に付けられていた。

お葬式は順調に終わり事務所に帰って
報告書を仕上げていると上司が紙コップに
珈琲を持ってきてくれた。

「大丈夫?」

「んー、眠いですけどなんとか。」

「あっ、そうか。」

一人で何かを納得した上司が部屋から出て
帰ってくると手には水が注がれてて、
飲めと言ってくるのでなんなく飲んだら
急に頭が痛くなった。

ミシミシミシミシミシ

頭を抱えて机に伏すと割れるかと思うぐらい
耳元でさらに大きくミシミシ聞こえる。
頭蓋骨を素手で割られているかのよう。

昨日の今日で恐怖は倍増。

痛い

助けて……

ザザザッ

耳が微かに違う音を拾うと楽になり
顔を上げた。

「治ったか?」

何故か上司が持っている瓶は
私の頭上で逆さに向いており、

「え?あ?はい……」

パニックになりながらも口を開くと
やたらと塩っぱかった。

「ってか、顔痛い!!!」

「塩かけたからな。
そこで払ってそれでも痛かったら
一緒に給湯室に行くか?」

「お、お願いします。」

化粧はこの際気にする事なく豪快に洗い、
事務所に戻ろうと部屋を出たら
やたらと廊下が寒い。

いや、ありえない。
だって今、真夏ですよ?

「もう心配いりません。
安心してください。」

すると上司は誰も居ない非常出口に向かって
そう言うと、一気に暑さと虫の声が聞こえた。

ゾォッとした。

いやいやいや、今更虫の声いる!?
え?
あれ?
そう言えば昨日から…
私、人の言葉以外無音じゃ無かったか?

「イャャャーーーー」

お腹の底から声が出た。

「今更かよ。」

そう冷静に言った上司に説明を求めると、
聞かない方がお前の為だと言って笑った。